FX業者のホームページや解説サイトを見ていると、「DD、NDD、OTC、STP、ECN…」とアルファベットが連続して出てくることがあります。
このアルファベットは全て「FX業者の注文処理」を示しています。実は、トレーダーの注文はFX業者によって処理方法が異なっています。
FXの注文処理方法の違いを知ると、「自分の注文がFX業者でどのように処理されているのか」を理解できるでしょう。この記事では、海外FX業者の注文処理の詳細と違いについて解説します。
目次
すべてのFX業者は、DD取引とNDD取引の2種類に分類できる
すべてのFX業者は、大きく2種類に分類することができます。それが「DD(ディーリング・デスク)方式」と「NDD(ノンディーリングデスク)方式」です。
ほとんどの海外FX業者ではNDD方式が主流ですが、国内業者のほとんどはDD方式を採用しています。(※一部の国内FX業者ではNDD方式を採用しています)
注文の流れの違いを図で表すと、以下のようになります。
DD取引(ディーリング・デスク)
投資家の注文はFX業者の※ディーラー(仲介人)によって、「インターバンクにそのまま流すのか、カバー取引するのか、相殺取引するのか」などが判断され、実際には一部分のみインターバンク市場へ流すようにします。
OTC取引 / 相対取引 / 店頭取引と、ほぼ同じ意味で用いられています。
FX業者にて、顧客の注文を処理する人のことです。相場の知識と経験を積んだプロトレーダーがこの業務を行っています。
例)ドル円 108.500 で成行注文を出した場合
- Aさんの出した注文は、FX業者のディーラーへ送られる
- ディーラーは、Aさんの注文を一旦決済する【呑む】
- Aさんの注文をカバー先金融機関に流すか、FX業者が受けるか判断する
上記の例に出てくるAさんが、実際に取引をしているのはFX業者ということになります。Aさんの注文は、実際には注文通りの売買は行われていません。
トレーダーとFX業者の間には以下の関係が成立します。
DD業者とトレーダーは利益相反の関係です。トレーダーが勝ちそうな注文は反対売買でカバー取引をし、負けそうな注文はFX業者側で決済をして、トレーダーの損失分をそのまま利益にします。
これらの管理をするのがディーラーの役割です。
一般的には、FXトレーダーの90%は負けて、10%が利益を出していると言われています。ですから、DD取引を採用している業者は、トレーダーの反対売買取引で十分な利益を得ることができます。
DD取引だからこそ、国内FX業者が世界でも類を見ないほどスプレッドを狭くできるのです。
提示しているスプレッド・レートもインターバンクではなくFX業者次第なので、ボラティリティが高くなりそうな場面ではあらかじめスプレッドを広くすることもできてしまいますし、理論的には約定拒否・ストップ狩りも起こりえます。
DD取引のメリット
DD取引の最大の特長は、スプレッドが狭いことです。DD取引を採用している業者の利益はカバー取引や反対売買などによって十分確保できていますので、スプレッドをできる限り狭くしても大丈夫です。
圧倒的な極狭スプレッドを提供しています。スプレッドを重視する傾向にある日本では魅力的なのかもしれません。
DD取引のデメリット
あくまで可能性としてですが、以下のデメリットがあります。
ストップ狩りが過去にあった
過去には「ストップ狩り」と呼ばれる現象が多発した時期があります。ストップ狩りとは、FX業者がわざとレートを操作し、トレーダーのストップロス注文が大量に集まっている価格にレートを動かして、強制決済させることです。流動性が低くなる朝方に行われることが多くありました(今でもあるかもしれません)
「業者がこんなことしていいのか?契約違反じゃないのか?」という疑問が生まれるのは当然のことです。
しかし、先述のとおりDD取引は別名「相対取引」と呼ばれており、あくまでも取引相手はFX業者です。「契約の段階でストップ狩りのような突然の価格変動があっても保証はしない」と明記されています。当然、コールセンターに連絡するなどしても解決はしません。
2019年現在では、規制も厳しくなり減少傾向にあるものの、「朝起きたらポジションがない!」ということがDD取引では実際にあり得ます。
NDD取引(ノー・ディーリング・デスク)
投資家が行ったすべての注文は、海外FX業者のサーバーで自動的に処理される仕組みです。注文はそのままカバー先の金融機関(プライムブローカー)や、インターバンク市場に流れます。
一般的には、DD取引よりもクリーンな環境で公平な取引を期待できます。FX業者の利益は、スプレッドに含まれている部分もしくは取引手数料です。
- インターバンクのスプレッドに利益分を含めてトレーダーに提示(STP方式)
- 取引手数料をトレーダーから徴収(ECN方式)
このように、NDD業者は「トレーダーが取引をしてくれないと利益が出ない」というビジネスモデルです。故意にトレーダーに損をさせて、取引をできなくしてしまうと、そもそもの意味がありません。
NDD取引のメリット
不利なレート操作が一切ない
NDD取引を採用しているFX業者は、「トレーダーとカバー先金融機関・インターバンク市場の仲介役」です。注文を操作することも、ストップ狩りなど極端にレートをいじることはしません。その理由は、取引自体の仲介手数料(上乗せ分のスプレッド・取引手数料)が業者の利益だからです。
約定力が高い
NDD取引では、リクオート(約定拒否)は基本的に発生しません。トレーダーの注文は公平に、カバー先の金融機関やインターバンク市場に送られ、指定したレートがマッチングされていくからです。
相場の動きや流動性の関係でスリッページは発生する可能性がありますが、こちらも市場原理に基づいて公平に発生します。つまり、ポジティブ方向にスリップすることもあれば、ネガティブ方向にスリップすることもあるということです。
NDD取引のデメリット
スプレッドがやや広め
スプレッド分が業者の利益となるNDD取引では、DD業者と比較すると、スプレッドがやや広めです。
しかし、DD業者が人工的に作る原則固定の狭いスプレッドに比べると、NDD業者が提示するレートの方が、より自然な値であると言えます。
NDD方式は「STP」と「ECN」に分類される
STP方式(Straight Through Processing)
STP方式とは、トレーダーの注文をFX業者のサーバーを介して、インターバンク市場に直結しているカバー先金融機関(プライムブローカー)の中から、ベストレートをマッチングさせる仕組みです。
カバー先である複数の金融機関が提示したレートの中から、トレーダーにとって最も有利なレートをFX業者が選定して、注文を成立させます。
STP方式を採用しているFX業者の場合は、Instant Execution 形式が採用されることがほとんどです。つまり、海外FX業者のサーバー内で内部決済が行われます。このため約定力がECNよりも若干ですが、高くなります。
ECN (Electronic Communications Network)方式
ECN方式とは、インターバンク市場に直結した電子取引所(ECN市場)にトレーダーが直接参加し、他の銀行や投資家たちの注文と自動的にオークション形式でマッチングさせていく仕組みのことです。
この電子取引所は、言わば「FX業者が提供する私設の為替市場」です。銀行やヘッジファンド、証券会社、トレーダーの注文を集めてマッチングさせるようにしています。※ここにインターバンク間の注文が入ることもあります。
そのため、この電子取引所はFX業者ごとに異なります。ECN口座で見ることのできる板情報も、業者ごとに違うのはこのためです。もしかすると、提携している海外FX業者同士が同じ電子取引システムを利用しているという可能性もありますが、この辺りは公表されていないので詳細はわかりません。
カバー先金融機関が多いほど、注文が電子取引所に集まってきますので、約定力も必然的に上がることになります。
また、ECN方式は、FX業者がトレーダーの注文に関わることは一切ないため、非常にクリアで公平な取引が期待できます。FX業者は、個人投資家を電子取引所へ仲介する役割のみを担っているので、その部分に対する取引手数料がFX業者の利益となります。
FX業者にとっては、STPに比べ取り分(利益)が少ないため敬遠されがちなECN方式ですが、トレーダーにとっては、ほとんどの通貨ペアで取引手数料を考慮しても、他のタイプより取引コストがお得です。
ECN方式の特徴
ECN方式で提示されるスプレッドは、インターバンクのスプレッドがそのまま表示されます。また、外付け取引手数料なのでトレードコストが安定しています。スプレッドは常に変動しており、時にはスプレッドが0、一時的に売値と買値が反転する「マイナススプレッド」になることもあります。
株式投資ではおなじみの板情報ですが、FXで見かけることが少ない理由は、ほとんどのFX業者でECN方式を採用していないからです。ECN方式であれば、電子取引所に直接アクセスするので「どの価格で、どれぐらいの注文が出ているのか」が一目で分かります。
STP方式やDD取引では、FX業者の中で注文が処理されてしまうため、板情報を見ることはできません。
少し話がずれるかもしれませんが、ECN方式であれば、税制面でもお得になります。理由は「取引手数料を経費として計上できるため」です。
STP方式やDD取引だとスプレッド分に取引コストが含まれていますので、経費に計上することはできません。
しかし、ECN方式であれば、取引コストが明確で「1年間にどれだけの取引コストが発生したのか」がすぐにわかります。あまり知られていませんが、税制面でのメリットがあるということを覚えておくと、確定申告の際にメリットとなるかもしれません。
ECN方式ではトータルコストを考える
ECN方式では、スプレッドに加えて取引手数料が発生します。取引ごとに発生するコストを考えて、トータルでどのくらいになるのかを把握しましょう。
実際の取引コストの計算方法は以下のとおりです。
例) 1Lotあたり7ドルの取引手数料(TitanFX)
上記の取引方式の手数料は、「1Lot(10万通貨 10万ドル)の取引ごとに7ドル」となります。
・エントリー → 7ドル
・決済 → 7ドル
・合計 = 14ドル
エントリーと決済の両方で手数料が発生する点に注意しましょう。実際には、FX業者のWebサイトに掲載されている取引手数料を2回支払う必要があります。
pips換算すると以下のとおりです。(1ドル≒100円とした場合)
- 7ドル÷10万通貨 = 0.00007ドル≒0.07円 = 0.7Pips(片道分のコスト)
ECN口座の場合、「スプレッド+(HP掲載の取引手数料×2)」分が実際のトータルコストです。
STP口座とECN口座の比較表
項目 | STP口座 | ECN口座 |
---|---|---|
スプレッド | やや広め | 非常に狭い |
取引手数料 | 取引手数料無料 | スプレッドと取引手数料を考慮する必要がある |
情報量 | 板情報は確認できない | 板情報が閲覧できる |
レバレッジ | 業者の提供する最大のレバレッジが利用可能 | 最大レバレッジが制限されている場合が多い |
取引単位 | 最低10通貨~ | 最低1000通貨~ |
NDD方式の「Instant Execution」「Market Execution」違いとは
「Instant Execution」(インスタント・エクスキューション)
直訳すると「即時注文決済」という意味になります。
トレーダーが注文を出すと、FX業者のサーバーで、システムが自動的に投資家の注文を一旦決済します。自社内で相殺できる部分を相殺し、できなかった部分は全てLP(リクイディティ・プロバイダー)へ流されます。
トレーダーの注文を決済する仕組みには若干のタイムラグが発生します。その間にレートが変動してしまうと、リクオート(約定拒否)が発生する場合があります。
上記のすべての流れを全自動で行うのが、この「Instant Execusion」です。主にSTP方式を採用している口座タイプで用いられています。
「Market Execution」(マーケット・エクスキューション)
※別名 : DMA(ダイレクトマーケットアクセス)、カウントダウン形式とも言われます。
こちらは直訳すると「マーケット決済」という意味です。
トレーダーが注文を出すと、FX業者のサーバーで、システムが自動的にLP(リクイディティ・プロバイダー)にすべての注文を流します。
注文で提示したレートで決済できるとは限らず、最終的にはマーケットでマッチングを行ってから約定されます。この方式に「約定拒否」という概念はありません(仕組み的にもできません)。
ただし、流動性が低く取引相手がいないという条件が重なると、注文が滑る(※)ということはあります。
※マーケット・エクスキューションには、スリッページという概念はありませんが、同じ現象が生じる場合があります。
この方式では、トレーダーが出した注文はすべてマーケットに流れます。トレーダーが出した注文と反対売買をする金融機関・投資家がいれば、取引が成立します。
ヨーロッパ時間やニューヨーク時間では、世界中の投資家や金融機関が何百万通貨単位で取引をしており、流動性が高いためリクオート(約定拒否)になることは基本的にありません。
しかし、流動性の低いオセアニア時間に、マイナー通貨をトレーダーが注文しても、反対売買をする金融機関は非常に限られてしまいます。
このようなときに「スリッページ」もしくは、流動性不足によって取引が成立しない「約定拒否」が発生する可能性があります。
インターバンク市場についての補足
SNSや他のサイトを調べると、「インターバンク市場=1ヶ所」という考えをされている方を時々見かけますが、実際はそうではありません。
インターバンク市場は、物理的な場所がある訳ではなく、直接電話やオンラインで取引が行われています。そのため、為替市場はNYSEや東京証券取引所のように、参加者が1ヶ所に集まる場所は存在しません。
インターバンク市場に直結してる金融機関(LP)は、FX業者が選択します。
また、FX業者の中には、このLPに直属のグループ企業を入れて、そこで注文を呑んでいる「見せかけの NDD / ECNブローカー」も存在しますので、カバー先も重要になってきます。
しかし、実際に繋がっているカバー先は顧客側から調べることが難しく、ある程度の部分は業者を信用するしかありません。これについては国内外の業者を問わず言えることですが…。
そもそもの前提として、LPの一覧を開示できない業者の場合、 実質はNDDでない可能性があるため注意が必要です。
インターバンク市場とECN市場、アグリゲーターなどの関係性についてはこちらの記事で詳しく紹介されています。特に、ページの一番下にある「注文の流れと関連企業の概要」の画像がとても分かりやすいです。
まとめ
最後に、これら海外FX業者の注文処理方法についてのまとめです。
FX業者は、大きく2つに種類に分けられます。
- DD取引(OTC取引 / 相対取引 / 店頭取引) ※主に国内FX業者が採用
- NDD取引 ※主に海外FX業者が採用
また、NDD取引には2種類の取引方式がありました。
- STP方式
- ECN方式
さらにNDD取引を細かく分けると、以下の分類になります。
- Instant Execution(インスタント・エクスキューション)
- Market Execution(マーケット・エクスキューション)